人気ブログランキング | 話題のタグを見る
                 
  環境文明21は、環境負荷の少ない持続可能な環境文明社会の構築を目指す環境NPOです。
  

「雨ニモマケズ」が投げかけた重い宿題

3.11の大震災のあと、宮沢賢治(1896~1933)の「雨ニモマケズ」の詩を想い起こし、この詩と今回の悲劇とを結び付け、所感や心境を語る人が新聞などメディアに何人も登場している。

今回の震災が、宮沢賢治の故郷を含む東北地方で発生したことも賢治を想い起こす一つの理由となったであろう。しかし、より本質的には、瓦礫の山になす術もなくたたずむ住民、悲しみに必死に耐えている被災者の群れ、逝ってしまった人に静かに花を手向ける人のたたずまいなどは、賢治が、「雨ニモマケズ」で表現した精神世界と重なるところがあったからかもしれない。

今では誠に有名なこの詩は、1933年に37歳で、ほとんど無名のうちに死んだ宮沢賢治が、死の2年前(今から80年前)、病床にて小さな手帳に鉛筆で書きとめたメモ、いわば彼の祈りを詩形に留めたものである。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋(いか)ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンヂャウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ



宮沢賢治没後の間もない頃から一貫して賢治を高く評価してきた哲学者の谷川徹三さんは、この詩を「賢者の文学」と評されたが、私にはこの詩の内容は賢治が今日の我々に突き付けた最も重い宿題―しかも80年経っても回答し得ない宿題―だと思える。私の疑問を率直に書けば、次のようなことである。

①「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダ」を持つこと、それはもとより結構なことだが、「慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル」のは、人の欲望を全て解き放ち、大いに怒り、抗議し、権利を主張すべき20世紀の精神に反しはしないか。
②「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」ていたのでは、栄養がゆきわたらず、たいした仕事も出来ないのではないか。栄養と美味があってこその人生ではないか。
③「アラユルコトヲ ジブンヲカンヂャウニ入レズニ」いたのでは、自分の権利は守れない。大いに自分のことを主張すべきではないか。
④「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ 小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ」、仙人みたいな暮らしをしていたのでは、時代からとり残されてしまうのではないか。
⑤「東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ束ヲ負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ」というが、そう人のためばかりに動き回って自分を犠牲にしないで、福祉などの行政にまかせるべきではないか。
⑥「ケンクヮヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロ」というが、何故つまらないのか、紛争があればその真相を究明し、決着をつけるべきではないのか。
⑦「ヒデリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ」とあるが、でくのぼうなどと呼ばれたら名誉棄損で訴えるべきではないのか。そもそも、ほめられもしない人生が、どうして願い足り得るのか。

以上は、賢者ならぬ凡人である私がこの詩を大変好んできたにも関わらず、ずっと抱いてきた深い疑問である。このように書き並べてみると、この詩に託された賢治の祈りは、現在の我々の人権尊重や自己主張の生活信条や経済を動かす市場原理とは本質において沿わぬものであることに嫌でも気がつく。

このことは何を意味するのであろうか。宮沢賢治は20世紀の前半に生きたにも関わらず、その時代の精神や主張を理解し得ていなかったのであろうか。それとも彼が生きた時代精神が今にして思うと誤りが多く、21世紀の今日になっても賢治の高みにまで至っていないということなのであろうか。「雨ニモマケズ」の詩が、賢者の文学であるとすると、この詩に心から共鳴し得ない私たちとは一体何であろうか。欲張りで自己中心的なただの愚人の集まりなのか。それとも、それとも・・・?

この詩は、21世紀に生きる私たちの心と行動の指針になり得るのではと思うが、先ほど提示した諸疑問への明確な回答は出し得てない。この状態を突破しなければ21世紀の真のパラダイムを得られまい。3.11の悲劇が私たちにこのようなことを深く考える機会を与えてくれたと思いたい。
by JAES21 | 2011-06-06 17:11 | 加藤三郎が斬る
<< 環境教育推進法改正案が無事成立した。 通すべき法律を早く通して >>



環境文明21の共同代表「加藤三郎」「藤村コノヱ」の両名が、時事問題等を斬る
by JAES21
カテゴリ
全体
会報巻頭言『風』
加藤三郎が斬る
藤村コノヱが斬る
共同代表が斬る
はじめにお読み下さい
未分類
以前の記事
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 05月
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧